Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

そして2人が残った

 文科省の組織的天下りが発覚した騒ぎは、事務次官のクビが即座に飛ぶ官邸の苛烈な措置で当面の収束を見たようだ。官民の癒着は様々な形で日本社会に残っており、納税者から見てムダに思えることが起こっている。これに対し、いくつかの挑戦があった。手法の全部がいいとは思わないが小池都知事の「行政の透明性」追求は、ひとつの例である。

 小泉内閣では、2つの大きな改革があった。「郵政改革」と「道路公団改革」である。以前同じ著者の「道路の権力」を紹介したときに、道路公団改革についてもコメントした。本書はその続編で、道路公団民営化委員会が当初7名で始まりながら、最後は2人(著者と評論家の大宅映子委員)になりながら最後の決着をつけるところまでが書かれている。巻末に35ページほどにわたり「対論 猪瀬直樹×田原総一郎」という記事があり、この部分だけ読めば何が問題でどういう勢力が係ったかがよくわかる。

 

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 本書の中ごろに、大きな意味を持った会合の記述がある。2004年2月26日(運命的な日ではある)、官邸で小泉総理を囲むように、石原国土交通大臣国交省佐藤道路局長、猪瀬委員、大宅委員が座り、斜め後ろに丹呉(総理)秘書官が控えていた。

 
 猪瀬委員は、民営会社の株式を政府が過半数持つのはNG、経営への政府介入もNG、資金調達への政府保証もNG、とするよう迫った。さらに関連団体への国交省からの天下りを禁止しようとして、せめぎあいになる。著者によると、総理の決断で根回しされていた国交省らの野望は潰えたとのことだ。

 国民やメディアの注目を集めた「道路公団民営化委員会」だが、7人の委員のうち5人が辞任もしくは欠席状態となり、猪瀬・大宅両委員のみが最後まで務めたことになる。本書によれば、国交省道路公団技術系・道路公団事務系の3つの勢力の意を受けた人が委員に加わっていて、背後の団体の思惑がぶつかりあった結果だという。無論、これらの団体からの反論もあるだろうが、ここでは本書のみを紹介した。
 
 前著と合わせて約1,000ページに及ぶ大作であるが、命の危険すら感じつつここまで「民営化」への努力を重ねた著者の動機はよく分からない。その著者がつまらない事件で都知事の座を追われたことも、また理解できない。後年、都知事時代のことも書いてもらえたらと思う。最後に上記会合出席者のその後を書いておこう。
 
 小泉総理 議員辞職後、国際公共政策研究センター顧問などを経て、
      原発ゼロを主張する「浪人」
 石原国交大臣 衆議院議員自民党政調会長、野党時代の幹事長などを経て、
        経済財政政策担当大臣
 佐藤道路局長 国交省技監、事務次官を経て、自民党参議院議員
 丹呉秘書官 財務省官房長、事務次官、読売新聞監査役内閣官房参与を経て
       日本たばこ産業会長。
 大宅委員 評論家
 
<初出:2017.3>