Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

道路公団民営化委員会

 天皇陛下の退位を巡る議論が大詰めを迎えているようだ。昨年は8月と9月の「朝まで生TV」が本件に係る議論を2ヵ月連続でやっていたし、同番組の元旦スペシャルでもひとつの主要議題になった。正直言って僕の全く知らない世界なのでコメントできるはずもないが、高齢の方が「そろそろ引退したい」とおっしゃるならそうしてあげるのが当たり前だと思う。

 
 政府の有識者会議で「一代限り」の生前退位を認める方向だそうだが、ニュース映像を見ていて座長の方に見覚えがあった。もちろん経団連名誉会長の今井敬氏であることは知っている。そうではなくて、何かの座長としてインタビューされている時の映像がちらりと頭をかすめたのである。それは「道路公団民営化委員会」。もう15年近く前になるが、小泉改革の1エポックとしての委員会でも座長を務め、150時間ほどの議論の末意見集約ができず委員長辞任という事件に発展したのだった。この委員会の戦いの相手は全国総合開発計画(ゼンソー)という怪物。

    f:id:nicky-akira:20190427143340p:plain

 
 僕自身がその議論に触れたのは2010年を過ぎた頃で、小泉改革の大騒動からかなりの時間がたっていた。しかし「ゼンソー」の勉強をしていく過程で指導してもらった人たちの多くが、道路公団民営化委員だった人も含めて本書に登場する。官僚から国会議員になった人、独立行政法人に移って持論を展開している人、大学教授になった人など、この人は当時こういう仕事をしていたのかと特別の感慨を持って読み終えた。
 
 「ゼンソー」の議論の途中で、僕がたまたま東京都の猪瀬副知事のコメントを引用したところ、現役官僚が「猪瀬直樹?ムシズが走る」と吐き捨てるように言ったのを覚えている。まあ、それも無理からぬことかもしれないと本書を読んで思った。国交省の官僚(含むOB)と著者との確執はきわめて深いものがあったことがうかがえる。
 
 民主党石井紘基議員が刺殺されて、著者は身の危険を感じたという。道路公団民営化委員会への往復にハイヤーを使うように勧められて委員会事務局に依頼すると「予算がありません」「前例がありません」と突っぱねられたが、総理にまでエスカレートさせて安全を守ったともある。石井議員殺害事件は暴力団系の犯人が逮捕されて有罪となっているが、いかにもその背後に「巨悪」を感じさせる書き振りである。
 
 作者が東京都知事になって東京オリンピックの誘致に成功するが、確執の深い国交省との連携がオリンピック実施には不可欠である。逆に国交省から見ても「ムシズが走る」都知事との連携は、悩ましいものだったろう。ところが猪瀬都知事は早々に辞職に追い込まれ、「クレヨンしんちゃん」知事が誕生する。世の中、うまく出来ているということでしょうか。
 
<初出:2017.1>