Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

京料理、夏の椀物

 僕は、なかなか本格的な和食を食べる機会がない。海外出張では、日本料理屋に入ることはほぼ無くなった。分厚い肉に疲れた時に入るとしても、居酒屋モドキで十分である。実業から手をひいてからは、会食という機会そのものが少ない。まして今付き合っている相手は公的部門の人が多く、接待はご法度である。まれにあったとしても、相手が好んで和食に誘うことは珍しい。イタリアンか中華くらいが多いように思う。

 
 今回は非常に珍しいケース。外国からのお客様が来て、本格的な和食をとのリクエスト。そういう事に長けている人がセットしてくれたのが、2年ほど前に開業したとある料亭。2人の外国人のうち1人はお酒を飲まないそうで、ウーロン茶とアルコールフリービールを呑み始めた。残り3人は、シャンパンの後日本酒に。
 
 最初に出てきたのは、豆腐の上にウニとエビを乗せた彩り豊かな前菜。エビはともかく、ウニを英語で説明するのは難しい。悩んでいるより、食べてしまった方が早い。そしてその次が「椀物」。これは、料理人が一番力を入れるメニューだとものの本に書いてあった。椀物は、和食の「華」だという。

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 一流店らしく椀そのものも高級感にあふれているが、もちろん主役は中味。夏シーズンなので、具材はハモである。京都の料亭の川床で・・・などと風雅なシチュエーションではないが、夏の味覚のチャンピオンの登場である。
 
 京都の夏が暑いのは、内陸に位置するせいだ。東西と北を山地に囲まれ南に大きな池がある地形が、怨霊からの防衛に最適なのだそうだ。そのトレードオフで気候のしのぎやすさと海産物へのアクセスは犠牲にされている。ハモは丈夫な魚なので、内陸にある京都まで生きて運ぶことができたらしい。生きた海魚として珍重されたのだが、問題はその小骨の多さ。いちいち引っこ抜くなど、とてもできない。
 
 そこで考えられたのが、小骨を細かく切ってしまうハモの骨切りという料理法。数ミリ刻みで細長い専用の包丁を動かし、身と小骨をもろともに切ってゆく。素人がやると間隔が不ぞろいになり、皮まで切ってしまいかねないが、プロは幅も深さも正確に切る。それを自慢のだし汁に浮かべたのがこれ。
 
 程よい香りと味付けのスープが、あっさりとしたハモの身にアクセントをつけて、これぞ夏の京料理という感じ。うーん、久し振りに味わいました。ごちそうさまでした。
 
<初出:2017.8>