和食文化を広めようという話は、ずいぶん以前からある。潜在的に、和食に対する世界の人たちの興味や期待は大きい。アメリカでは健康食として人気が出たし、同じように素材の味を楽しむイタリア人は好むという。食に関しては特に気位の高いフランス人ですら、和食・日本酒を喜んでいるとも聞く。
欧米に限らず、アジアや中東でも和食の人気は上がっている。シンガポールに出張で行った時「やよい軒」で夕食を食べたが、現地の若い人たちでずいぶん混んでいた。シンガポールは人種・民族のごった煮国家である。当然、ムスリムの人も多い。隣国マレーシアやインドネシアは、ムスリム国家である。
ところが、中東で日本の醤油が禁忌にひっかかるという事件が起きた。みんな大好きなお寿司をはじめ、和食には欠かせない調味料が醤油である。
アルコールを口にできないムスリムにとって、微量ではあっても醤油にアルコールが含まれることは大問題なのだ。ちょっと困った話なのだが、実はこの事態を予見していた人たちがいる。3年ほど前、昔からの友人と食事をしていて彼が「ハラル醤油」を開発する企業の後押しをしていると聞いた。彼の会社はベンチャーキャピタルで、知り合ったのはITがらみなのだが、ITに限らず新事業に挑む企業を支援しているのだと言う。
彼はマレーシアでビジネス開拓をしていて、グルメでもあるので当地の寿司屋にもよく行ったらしい。ネタもシャリも良くて安いのに、醤油がひどいと感じたという。それは現地でハラルの規定に合うように作られた醤油だったが、美味しくない。一方国内の醤油メーカーは、いずれも後継者不足・人手不足・販売の頭打ちなどで苦心している。そこで、大分の老舗醤油メーカーを支援する形で「ハラル醤油」を開発させたのである。
僕たちもグローバルビジネスを国内産業がどう展開できるか議論や実践をしていますが、この例を見るとどんな産業でもその機会はありそうですね。
<初出:2017.10>