Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

135日間の裁判員裁判

 京都地方裁判所で、いわゆる「青酸連続不審死事件」の公判が始まっている。容疑者である筧被告人が拘留されて2年半になるが、裁判の報道があるまで事件のことはすっかり忘れていた。

http://www.asahi.com/articles/ASK6P64S6K6PPLZB01S.html

 不遜ながらミステリーマニアとしては、本格的な法廷ドラマが期待できる事件である。その上「裁判員裁判」なので、裁判員がどう考えてどのような裁定を下すかに興味は尽きない。上記報道にあるように、裁判長期化を避けるために開廷前に争点の調整をするのが現行制度の特徴。これによって法廷ものの小説や映画にあるようなとんでもない論点の飛躍は無くなり、予習の範囲内で論証・反駁が行われることになる。その調整のために、2年半の時間を要したと言われている。


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 「後妻業の女」という映画があったが、心象的には筧被告人は凶悪な後妻業の女に見える。しかし報道される範囲では、有罪を立証しようとするものは状況証拠ばかりである。被告人が犯行を認めたともいうが、認知症の疑いもあって検察としては「自白」だけに頼るわけにもいくまい。
 
 本人が本当に認知症かどうかは別にして、弁護人が無罪を主張するのは当然のように思う。そこで興味深いのが、裁判員の判断。プロの裁判官ならば、状況証拠を割り引いて考える傾向にあるが、素人である裁判員はどう転ぶか分からない。

 治安は市民の手で守るとの意識が高いせいか、米国には陪審員制度が根付いている。「12人の怒れる男」など法廷映画の名作も多い。もちろん、E・S・ガードナーのペリー・メイスンシリーズのようなミステリーも豊富だ。日本では法廷ものは多くなく、大岡昇平「事件」や高木彬光「破戒裁判」などしか印象に残っていない。この差は陪審員制度にあると、僕は思っている。ドラマチックな展開ということもあるが、市民が裁判に近いところにいるということが大きい。

 今回の裁判は135日というロングランで、裁判員への負荷も並々ならぬものがある。陪審員と違って、有罪・無罪の判断のほか量刑も決めなくてはならない。もし4名の謀殺で有罪となれば死刑が妥当だろうし、70歳の認知症の女を死刑にできるかどうか裁判員の勇気も試される。その上でどのような結論に至るか、見守りたいと思います。
 
<初出:2017.7>