Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

旅行業界のデジタライゼーション

 格安旅行会社「てるみくらぶ」の経営破綻は、旅行業界としては最大級の負債(151億円)を抱えてのものだった。ちょうど春休みの行楽シーズンで、36,000名あまりの消費者に影響が及んだ。さらに4月に入社する予定の内定者が50名もいたことに驚かされる。現在の従業員は80名ほどだから、一体何を考えて内定を出したのか理解に苦しむ。

 
 
 調べてみると、2010年には従業員146名となっている。この6年間に4割ほど減っている。社長は破綻原因を「広告費をかけすぎた」と言っているが、そんな簡単なものではないだろう。粉飾決算もあったようだし、経営が傾いたのは、かなり以前からだったと思われる。

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 この企業がなぜ格安旅行商品を提供できるかというと、売れ残っている商品(フライトやホテル)を安く仕入れ、自社のパッケージに組み込んでインターネットで売りさばくビジネスモデルがあるからだ。これは、当初はうまくいった。大量販売をすればキックバックもあるし、ネット販売なので店舗・従業員等への投資は少ない。
 
 しかしこのビジネスモデルは過渡的なものであることに、この経営者は気づかなかったようだ。インターネットでの発注に慣れてきた消費者は、仲介業者ではなく商品の販売元(航空会社やホテル事業者)から買うこともできるし、その方が安ければ一気に流れるのだから。
 
 販売元も「てるみくらぶ」を経由して売るより、別の手段(自らのサイトやBooking.comのようなサイト)で売る方が得ならそうする。インターネットは販売元と消費者を直接つなぎ、仲介業者を排除することで仲介コストを削減できるのである。いわゆる「中抜き」モデルなのだ。
 
 昨年複数の旅行事業者がサイバー攻撃を受け、個人情報が流出する事件があった。その時教えてもらったのが、大手だけではなく中小事業者も、旅行商品の5割はインターネット販売をしているということだった。電子商取引の比率は業界ごとにまちまちだが、旅行業でこれほど電子商取引が浸透していることは気付かなかった。
 
 インターネット経済の動きは早く、すべてのビジネスモデルの賞味期限は短い。「脱皮できないヘビは死ぬ」と俗に言うが、この世界の早さについていけない企業の行先は暗い。
 
<初出:2017.4>