Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

研究予算のシフトと派遣研究者(後編)

 従来型の大学等研究機関で人件費を抑制せざるをえなくなって、そのしわ寄せが若い研究者に来ていることを前回説明した。その結果方々に発生したのが「派遣研究者」。研究開発の分野でも、非正規雇用に頼るようになったのである。

 
 ここで問題になったのが「派遣法」。2015年の改正により、研究開発業務の派遣が3年に制限されることになってしまった。これは研究者に3年以内に成果を出せというに等しい制約と思う。派遣法には、旧来は業務区分があった。
 
1.派遣期間の制限がある一般業務 ⇒ 派遣先最小単位部署ごとに最長で3年間
2.政令26業務など制限がない業務 ⇒ 期間制限なし
 
 政令26業務には、情報処理システム開発・通訳翻訳速記等・建築物清掃・案内受付などと並んで「研究開発」が定められていた。今般の改正は、26業務を特別に切り出すのがおかしいとして業務区分は廃止になった。一方3年を経て派遣できないという規定は、正社員化をうながすものでもあったが、これは部署を異動すれば同一人が3年を超えて派遣可能になり、労働団体等からは「旧法の趣旨を無視した骨抜き」政策だとの批判がある。

    f:id:nicky-akira:20190416184520j:plain

 これは専門性が高い研究者にとっては、致命的な改悪だ。やはり業務区分は残すべきだったろう。あるノーベル学者は「一人前の研究者になるには10年かかる」と言っていて、研究分野の差こそあれ3年でひとかどの研究が出来るのはレアケースだと思う。「課」というのは研究室と言い換えることができるだろうから、3年で芽が出なければ隣の研究室で別の研究をしなさいということになってしまう。
 
 グローバル化が進んで新興国の労働者と直接・間接に戦わなくてはならないのが、現在の日本の労働者。ひとりの正規雇用分の資金で新興国の3~4人が雇用できるなら、企業が正規雇用を増やすはずはない。だから日本国内でも、非正規労働者が増える。一方労働団体は「ずっと非正規」はけしからんとして、旧来の派遣法を求めた。
 
 企業と労働団体の圧力のハザマで、政治が発掘した抜け穴のようなものがこの改正だったのではなかろうか。その結果が国内の研究体制を弱めることになっていることを、大隅教授はじめ先人は嘆いている。
 
<初出:2016.12>