Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

研究予算のシフトと派遣研究者(前編)

 ノーベル賞を受賞した大隅教授であるが、日本の研究機関運営に苦言を呈していた。いつ何の役に立つか分からない基礎研究の分野への、日本政府(もしくは社会全体)の理解が足りないということである。世の中がせちがらくなって、長期的な研究に人気が集まらないのは確かだ。何がおきるか分からないいつまでかかるか分からないでは、スポンサーもつかなければいい人材も入ってこない。基礎研究にも「成果主義」が幅を利かせている。

 民間企業の研究部門にある程度の成果主義が入ってくるのは、やむを得ないだろう。しかし政府・文部科学省らも成果を求めてくる。例えば政府の「戦略的イノベーション創造プログラム」では、単に研究開発・技術開発をするだけではなく「社会実装」が求められる。これまで多くの研究投資をしながら社会に活かせていない技術等が一杯あることから、文部科学省等の予算を削減して内閣府で研究の指揮をとるようにしたもの。

 このプログラムは現在11種が走っていて、例えば僕の専門領域では自動運転やサイバーセキュリティの研究・開発・社会実装が数年のレンジで企画・推進されている。年間数十億円を投入するものもあり、複数年計画なので全体予算はかなりの額に上る。財政赤字のおりから、この予算が新規に認可されるためには何かを削減しなくてはいけない。それは当然旧来行っていた研究開発投資から転用されることになる。

 このプログラムのせいばかりではないが、旧来大学等に落ちていた研究予算は削減され続けている。このため、大学等では研究者の削減を余儀なくされるところも出てくる。その結果実績ある教授の予算は減らしにくいので、若手研究者にしわ寄せが行くこともあろう。この点を、大隅教授は指摘しているようだ。

 

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 僕が修士課程に在学した大昔でも、博士課程に進むと「オーバードクター」になるぞと脅されたものだ。研究室の数はそんなに増えるわけではない。ずっと大学に残れる可能性は大きくないから、修士で大学生活は終えて一般企業に就職する方が有利と多くの大学院生が思っていた。

 その多くはないと思っていた助手や講師のポストが、研究費削減でさらに減っているわけである。これでは、若い研究者に希望は生まれない。

<続く>