Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

ICカード開発史(2)

 なんとか使ってもらえる品質にメドが付いたとしても、製造コストの削減が大きな課題だ。磁気ストライプは、何しろ安い。読み取り機もシンプルだし、システム価格としても安い。ICカードにしても光カードにしても、コストでこれを下回ることは不可能に近い。そうすると、これを導入していただくお客様に磁気ストライプよりも大きなメリットを感じてもらうしかない。事業の焦点は研究開発部門から製造部門に移っていたが、ここに至ってシステム(としてお客様に納入する)部門に移ることになる。

 システムを導入されるお客様側の事情は、業界や個別企業によって異なる、というより千差万別といっていい。

 ・読み取り速度が遅すぎて使えない。
 ・防水してなきゃ、ウチでは無理だね。
 ・離れたところから読み取りできないのか。 等々

 ご紹介したお客様からは、営業部門に大量のご要求が降ってくる。ご要求がくるのは目がある証拠とばかり、技術開発に走りそうになるのがワナの入り口。ICカードそのものは部品ビジネスだから、標準品を量産してコストを下げようとする。システムビジネスだとカスタマイズによって事業を拡大しようとするから、2つの事業は相反関係に陥ってしまう。

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 そういう迷走が、1990年代までは続いた。その過程で、光(磁気)カードという選択は無くなって行った。ヨゴレに弱いということもあったのかもしれないが、ICカードとの決定的な違いは「カード自体にはインテリジェンスが無かった」ことにある。
 
 ICカードはコンピュータのプロセッサが内蔵できるので、読み取り機(これも小さなコンピュータ)とコンピュータ間の通信ができる。通信していい相手をカード側も判断できるので、違法な読み取りを防ぐ公算が圧倒的に高くなる。光(磁気)カードは、この点磁気ストライプと同じ、相手が誰でも読み取られてしまうのだ。

 迷走の期間社員証をICカードにするなどマイナーな利用はぽつりぽつりあったが、本格的な普及のためには誰でもが持っているカードのIC化が必須だった。

<続く>