Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

Digitalという破壊神(1)

 アップルが高級車で知られる英国のマクラーレンを買収するという報道があった。いまのところ両社は、この報道を肯定していない。本件の真偽はともかく、クルマ産業にまでICT産業が手を延ばしているということに多くの人が驚かなくなっているのは分かる。ありとあらゆる産業が、ICTやインターネットの影響から逃れることが出来なくなってきたと思う。もう少しストレートに言うと、全ての産業がICTやインターネットで強化されうる/淘汰されうる時代になったということだ。

 

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 今回は産業のなかでも、製造業を見ていこう。まずは時計。クラシカルなメカの時計は、スイスに代表される精密工業の象徴だった。1960年代までは、スイスやアメリカのメカ腕時計が世界でもてはやされていた。そこに現れたのが「クォーツ時計」。

 
 水晶振動子を用いて時刻を計測するため、優れたメカよりも精度は高い。問題点は小型化や対衝撃性を高めるためには高価格にならざるを得なかったこと。1969年のセイコーアストロン」は45万円と実用化されたとはいえない値段になってしまった。

 その値段が、デジタル半導体技術がすすんだことから急速に下がった。1970年代にはブームが起き、同時にスイスやアメリカの時計産業には深刻な打撃を与えることになる。今はメカの腕時計などというものは趣味の世界にしか存在しないし、そもそも携帯電話を持つようになってから、僕も腕時計そのものを持ち歩かない。

 次はオーディオ。ずっしりと重いターンテーブル(重くないとレコードが安定して回転しない)、黒光りするプリ・アンプとメイン・アンプ、部屋の両隅を占領している大型スピーカ、さらにチューナー、カセットデッキ。学生時代からカタログだけは集めていた。社会人になってからも最初の10年ほどは転居に次ぐ転居で、ずっと仮住まい。ようやく落ち着いてこれらを受け入れるウツワ(賃貸住宅ですけどね)を手に入れたころには、これらのアナログ機器は時代遅れになりつつあった。

 レコード盤からCD(Compact Disk)へと、音楽ソースが変わり始めた。アナログ時代には念入りな調整をしないといい音が聞かれなかったものだが、それがいとも簡単に手に入る。レコード盤のように接触していないから、音質にも経年変化がない。機器の価格も安くなり、設置スペースも小さくなった。これまでの真空管アンプなどは、まるきり趣味のものになってしまった。

 一時期「ウォークマン」で一世を風靡したソニーもデジタル化に追随しようとしたものの、アップルの「i-tune」登場で痛手を被っただろう。すでに製品というよりサービスの提供者になったアップルは、カナモノは日本や台湾から調達するようになっていた。「よい製品」を出すことが高い付加価値だった時代は、この分野では終わりを告げたのである。

<続く>