マレーシアで著名な人権活動家であるマリア・チン・アブドゥラ氏が、18日に逮捕された。容疑は「治安犯罪特別措置法」違反で、要するにテロ対策のために拘束が必要だというのが当局の主張。朴大統領・ドゥテルテ大統領・トランプ次期大統領の派手な騒ぎで見過ごされていたが、マレーシアでもナジブ首相の資金流用疑惑が持ち上がって大規模デモが起きているらしい。
治安の維持は、市民が安心して暮らし経済活動を活性化してよりよい生活を手に入れるための必要条件だ。一方で人権の不当な抑圧は、糾弾されるべきである。韓国の騒ぎは少しちがうかもしれないが、各国の抱える問題は「人権と治安のバランスをどうとるか」に集約できるかもしれない。
フランスは同時多発テロから1年経って、まだ非常事態から抜け出せていない。移民・難民のイスラム教徒への有形無形の圧力は強まっている。「フランスに来たらフランス人のようにしろ」という政治家もいる。つまり公の場では、アラビア語は話すなブルカは脱げということ。プライバシー意識の強い国だが、それでも新たなテロを防ぐためには電話や通信の盗聴もやむを得ないとの意見もある。
ご存知トランプ次期大統領の選挙期間中の発言、日本のニュースではさんざん流してくれるので英語でも覚えてしまったくらいだが、イスラム教徒の入国を完全にシャットダウンするというのもそれ。9・11をはじめボストンマラソンを狙った爆破など、多くのテロがイスラム教徒の仕業なら元から絶とうというわけ。すでに長く「移民の国」アメリカに住んでいるイスラム教徒の人権を、脅かすような発言だ。
ドゥテルテ大統領は、ある意味もっとすごい。麻薬犯罪者に人権などないと言い切り、それに苦言を呈した国連高等弁務官を「アホ」呼ばわりした。背景には市民をむしばむ麻薬犯罪があって、大統領自身「麻薬との戦争」をしているのだとの気概は感じる。かつてのペルー・フジモリ大統領を思わせる(少し品位に欠けるが)。
ひるがえって比較的治安がよく人権も守られている国、日本。国会の憲法審査会では、自民党の(与党のではない)憲法改正素案について「立憲主義に反した、けしからぬもの」との批判が一部野党から出ている。本来憲法とは権力を縛るものでこれには国民を縛る思想が見え隠れする、ということ。
総理は「憲法が権力から国民を守るだけのものというのは、古い考え方」として「新しい国のあり方」を示すものにしたいとの意思を示した。一部野党から、これを支持する意見もあるようだ。日本が今のように安定している時期は、続かないかもしれない。いまこそ、日本にあるべき「治安と人権のバランス」を議論すべき時だろう。
<初出:2016.11>