Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

従業員株主の悲劇、再び

 債務超過の恐れが出てきた東芝であるが、株価も瞬く間に半減してしまった。1部上場も廃止されるのではないかとの観測もある。その結果、自社株を買っていた社員には資産の目減りという追い討ちまでかかってしまった。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170301-00518344-shincho-bus_all

 ある程度の規模の企業であれば、自社株を持つように企業が従業員に勧めるのは珍しいことではない。企業としては安定株主を増やすことができるし、従業員にとっては手軽な蓄財の手段である。僕が社会人になった「右肩上がり経済」の頃には、給料のうち応分を自動的に自社株買いに廻す「持ち株会」制度が隆盛だった。

 毎月定額を拠出するので、株価が安いときにはたくさん買えるし、高いときには自動的に購入株数は少なくなる。株価はゆっくりではあるが上昇するので、損をすることは考えにくい状況である。上司の課長はこうして「財」を成し、立派な一戸建てを手に入れたと自慢していた。もっとも建てた直後に転勤になり住んでいるのは奥様と子供だけ、ご本人は転勤先で寮暮らしではあるが。


 さて上記の記事を読んで、歴史は繰り返すと改めて思った。2001年末、アメリカ・テキサス州のエネルギー企業エンロンが破綻している。負債300億ドル以上と言われ、創業(1985年)の数年後には粉飾決算に手を染めていたと言うから弁護の余地はない。本業の石油・ガスに加えインターネット上にさまざまな取引市場を開設(エンロン・オンライン)ガス排出権などまで取引するIT企業の面も見せた。その結果株価は上昇、2000年8月に90ドルに達したが、経営陣は140ドルまでは行くと強気の発言、アナリストも「買い」を強く支持した。

 自社株を従業員に買わせる戦術も、凄まじいものがあった。当時のニュース映像を今でも覚えているが「何を買うか?エンロン株しかないだろう」と従業員を集めてたたみかける手法は、催眠商法そのものだった。実際株価は(粉飾で)上がっていたので、従業員も収入をどんどん自社株に投資、経営陣から見れば支払った給与が戻ってくるようなものである。もちろん、株価をさらに押し上げる効果もあった。
 

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 貯えのほとんどを、自社株に投資した従業員もいたという。破綻の結果、この人たちは職場と収入源と貯えを一度に失ったことになる。翌年破綻したワールドコムと合わせた巨額倒産事件を受けて、米国は「上場企業会計改革法および投資家保護法」(通称SOX法)を制定、内部統制を経営者に求め、悪質なものには厳罰(確か懲役20年くらいだった)が課せられるようになった。日本でも類似の主旨で、金融商品取引法が制定されている。東芝の経営陣には、このような処罰は来ないのでしょうかね?
 
<初出:2017.3>