"Big Data" という言葉は、出てきた頃から胡散臭いと思っていた。プロセッサやストレージなどのカナモノを製造販売している狭義のICT産業は、5年で10倍の性能向上という激しい競争社会で生きている。彼らのすべきことは、5年で1/10になりかねない市場を開拓することだが、もう少し安易な方法もある。それは、お客様のところのデータを爆発させてやること。役に立つかどうかはともかく、まず溜め込みましょうと勧めるわけ。
なぜ胡散臭く思ったかと言うと、データ爆発は本音なのだが賢い営業はもう少しオブラートに包んだトークをするものなのに、ナマの本音をさらけだしているからだ。データを溜めると何かいいことがあると思ったユーザ企業は、言われるままにコンピュータ設備を増強する。それでもなかなか成果らしいものは出てこない。そうなると「ある程度溜めないと効果がでないのですよ」と言い訳する営業もいる。
ただはっきり成果の出るアプリケーション分野も、いくつか存在する。プロスポーツはその代表的なものである。例えば野球。野村克也元監督の「ID野球」は有名で、投手・打者・点差やイニング・走者・捕手などを決めると、投手がどういう攻め方をするか、打者がどういう狙いで打席に入るかをかなりの確率で当てることができる。
もっとプリミティブな例を言うと、30年以上前球団コーチが新人投手に対して「1点差、9回ウラ2死満塁、フルカウント。君は何を投げる」と聞いた。
「一番自信のあるカーブ」とか「その打者が苦手とする球種」という答えを期待したのだろうが、ある高卒新人が、
「どういう経緯でフルカウントになったのですか?それによって変わります」
と聞き返した。彼はじきに球団を代表するクレバーな投手になった。昨今は、1球毎の球種やコースに留まらず野手の微妙な守備位置などもスコアラーが記録している。これは立派な"Big Data" だ。なにより良いのは、データの分析が比較的早く成果をもたらすこと。球種の予測が当たれば、打撃成績が上がる。打者の苦手なことが分かれば、防御率が上がるわけ。
似たようなことは、バスケットボールやサッカー、テニス、ゴルフなどでも行われている。オリンピック競技もその例外ではない。選手の体力や技量に加えて、用具の向上とデータの活用がより強い個人・団体を作ってゆく。
<初出:2016.12>