最後にクルマのデータを使って、行政の役に立てる可能性を述べよう。初回に紹介した「バス・トラック等のデータを収集する」ことは、大きな事故を防ぐ効果が期待できる。これを僕が思った背景は、現在いろいろな団体・企業が保有しているデータの活用だけでは満足できなかったことにある。しかし新しいデータを集めるにはそこそこの投資が必要になり、その費用対効果や社会的意義が求められる。その点人の命がかかった「安全対策」なら、行政も関係機関に対してデータの提供を求めやすいと考えたわけ。
◆急ブレーキ、急ハンドルをした場所の特定
事故につながりかねない事態に襲われたということだから、その頻度が高い場所は分かる。さらにどの方向から来た場合か、どういう車種に多い「ヒヤリ」か、時間帯は、天候(例:雪)はと条件を絞ることもできる。そのデータが集まれば、制限速度を下げる・一方通行にする・信号を新設するなどの措置がとれるかもしれない。
◆渋滞が頻発する場所の特定
別にデータを見なくても付近の人なら分かることではあるが、他のポイントと比較して対策の優先順位を付けようとしたり、渋滞原因を深堀りしたりしようとすれば、データがあると助かる。高速道路から降りてくる車が多いとか、路上駐車が多くて車線が確保できないとか、ショッピングセンターの駐車場に入ろうとする車が道をふさいでいるとか、鉄道の踏み切りがなかなか開かない・・・時間帯も含めて事情は異なっている。
◆公共交通利用促進
CO2削減のような理由をつけなくても、1人が乗っている乗用車と20人が乗っている乗り合いバスではどちらが効率的な移動手段であるかは明らかである。特に都市の中央部分ではその傾向が強く、なるべく公共交通機関を使ってもらうことが都市の経営者が考えるべきことだ。しかし中心市街地の乗用車乗り入れを禁止し公共交通を倍増するような急激な施策では上手くいかない。どのような乗用車(と運転者)がどういう目的で中心市街地を出入りするのか分かっていれば、対策はあるかもしれない。車がどこから来てどこに止めどれだけ滞在したかというデータは、上記を考える助けになるだろう。
◆都市計画の精度向上
高速道路新設のように大掛かりなものでなくても、街の街区を整理し道路を拡幅したり、歩道橋を廃して信号タイミングを変えたりして住みやすい町、歩いて廻れる範囲の広い町に改変することはできる。そのために現状市街地全体の交通事情を把握することは意味がある。水道や電力線、通信基地局配置などにも影響してくるかもしれない。市役所が「タテワリ」なのは仕方ないことだが、首長がこれを廃して総合的な都市計画を立案推進するには、明白なデータが必要だ。
6回にわたって述べてきたように、クルマの吐き出すデータの利用価値は大きい。僕が思いつく範囲を超えた画期的なアイデアもきっと出てくる。その成果として、街が良くなり人が活き活きしてくる、そんな社会を早く見たいものである。
<初出:2016.10>