Cyber NINJA Archives

2016年からの旧ブログを整理・修正して収納します。

自動車情報の活用(3)

 次の例は、自動車保険への適用である。日本でも、実際の走行距離や運転の仕方によって保険料を変えるタイプの損害保険(テレマティクス保険という)がちらほら出始めている。どうやって実際の運転状況を知るかというと、いくつか方法がある。

 
 北アメリカで自動車情報を収集している"Hughes Telematics" 社では、全てのクルマに付いているOBD(On Board Diagnose)端子に、無線発信機を取り付けクルマの内部情報を遠隔収集できるようにした。同社は発信機を取り付けたクルマのデータを蓄積・整理して、保険会社に売っているわけ。

 OBD端子は整備工場などでこれにプラグを差し込んで、クルマに貯まっている内部データを吸い上げるためのもの。当然日本車にも付いているから、日本でも同じことができる。そういう議論をしていたら、自動車工業会の幹部が「OBD端子は整備等のために付いているものであり、それ以外の用途に使った場合安全は保障しない」と脅迫してきた。一種の抵抗勢力のようだ。

 他にも方法はある。スマホかそれに類した機器を装着して、位置情報や加速度は測定できる。エンジンの状況といったクルマの内部情報はとれないが、運転状況程度はわかる。新興保険会社はこの方法でテストマーケティングをしていた。これなら「脅迫」を受けることはない。

 テレマティクス保険は、イギリスでは相当普及していると聞いた。もともとこの国はクルマの情報を活用することについては先進国だ。駐在員の話によると「ネズミとり」の張り込み等はないという。GPSで位置と時間がわかり、A地点が何時・B地点が何時だから当然スピード違反ですよね、と罰金支払い命令が来るくらいだ。

 さて保険会社からはこういう手法や新しい保険は、どう見えるのだろう。保険の基本は「大数の法則」である。いろんな運転者やクルマはあるけれど、母数が大きくなれば統計値に近い結果が出る。過去から膨大なデータ蓄積をしている大手損害保険会社は、新興企業に対して優位にある。しかしこの手法はもっと細分化された、究極はこの運転者とクルマという単位での保険料率計算をすることになる。そのようなデータは社会全体で不十分だから、老舗(大手)も新興も差はなくなる。

 大手損害保険会社の悩みは、もうひとつある。安全運転に努める人の保険料率を下げるのはいいが、ならば危険運転をする人の料率は上げないと総収入がへってしまう。しかし料率を上げるのは実際には難しい。ならば、自分の首を絞めているだけではないのか? 

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 一方政府はテレマティクス保険の普及は安全運転へのインセンティブになると考えていて、普及を後押ししたいようだ。国交省は当然そうだし、保険会社を管掌する金融庁にもそのような傾向が見られる。ただテレマティクス保険の普及は、危険運転の減少につながらないという人もいる。イギリスの例では、搭載機のデータが「安全運転基準」を満たす範囲で、いかにアクロバティックな運転が出来るかを競うゲームもあるという。

 このようにいろいろな立場、意見、先行事例がある中で、時間軸は不透明だがテレマティクス保険は浸透してゆくと思う。その運転者とクルマのリスクを的確に反映することが保険商品のあるべき姿だろうし、これまでは技術的に不可能か不合理だったので「大数の法則」で代替してきたが、その必要がなくなろうとしているからである。

<続く>