「宇宙・・・それは人類最後のフロンティア」というナレーションで始まるSFドラマ "STAR TREK"。後に映画化されたとき、USSエンタープライズの美しさに感動した。このドラマの主役は、ウィリアム・シャトナーでもレナード・ニモイでもなく、航宙艦エンタープライズなのだとあらためて認識した。
さすがに宇宙に旅立つほどでもなかろうが、突然「フロンティアに行ってこい」と命じられたことがある。2012年の暮れ、僕はスワンナプーム空港で、ひとり乗り継ぎのフライトを待っていた。バンコクまでは何度か来た事がある。空港から市内までひどい渋滞でうんざりしたものだが、それでもそちらの方がマシだと思った。
乗り込んだのはタイ航空、行先はヤンゴン。何といっても軍事政権だし、いろんな民族がいて、ゲリラも出没するらしい。水に気を付けるのは当然として、クレジットカードが使えないのには困った。高騰し始めていたホテル代などはアメリカ$で払えとのこと。短期の滞在なのだが、1,000$以上の現金を持ってきた。こんな大量の現金を持ったのも、100$札を持ったのも初めての経験だった。
ケータイ電話も「使えないと思っておけ」とのこと。通信事情が悪く、しばらくはインターネットともお別れである。最後のメールチェックをスワンナプーム空港ラウンジでやっておいた。
なんとか仕事を片付けて、市内見物に出かけた。現地では乾季で過ごしやすいという12月なのに、35度は優に越えている。正直、クルマでなくては見物もできない。一番の名所という「シエラゴン・パゴタ」に行ってみた。ここは聖なる場所なので、靴は脱がないといけない。直射日光で温められた床をはだしで歩く。焼けたトタン屋根の上のネコ、の気分である。
この国の人たちは信心深い。富めるものも貧しいものも、おおむね年収の半分程度を喜捨すると聞いた。金箔を買って、みずから仏像などに貼っている。雨ざらしのものもあるから、周辺の下水溝は金鉱山並みかそれ以上の含有量があるだろう。
あれから4年、クレジットカードが使えるところが増えて、インターネットも使えるようになった。それでも、ここはまだ「アジア最後のフロンティア」である。
<初出:2016.6>